設計事務所及び建築士の主たる業務である「設計」とは?
設計とは?
設計という言葉は、機械や工業製品などにも使う一般名称ですが、建築物の設計については建築士法に定義があります。
建築士法
第2条
6 この法律で「設計図書」とは建築物の建築工事の実施のために必要な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書を、「設計」とはその者の責任において設計図書を作成することをいう。
簡単に言うと、「設計=図面を書くこと」です。
「それだけ!? 間取り図ぐらい自分で書けらぁ!!」
「じゃあ、設計事務所に頼まなくていいじゃん。」
自分の家の間取りを自分で考えたい。というのはすごく自然な欲求ですし、それを図面として書くことは、誰でも自由にしていいんです。
リビングは10帖くらいで〜、対面式のキッチンにして〜、キッチンの隣にパントリーが欲しいし〜、あと家事が楽なように洗面所を〜・・・なんてことは、家が欲しいと思った人は誰でも考えて、広告の裏(古っ!!)などに理想の間取りを書いてみたりすると思います。当然それは誰の許可も不要で、資格も必要ありません。家だけじゃなく、自分と関係ない店や、事務所や学校、秘密基地だって書いてもいいんです。
なぜなら、それは「設計」ではないからです。
では「設計」とは?
先の条文によると、「設計とは設計図書を作成すること。」とあります。
そして、設計図書とは「建築物の建築工事の実施のために必要な図面及び仕様書」とあります。
ここで言う「建築工事の実施に必要な図面及び仕様書」とは、いくつか例を挙げますと、
・配置図(敷地の形状や大きさ・地盤の高低差・建物の位置)
・仕上表(外装や内装の仕上げの種類・仕様)
・平面図(建物の間取りや室用途・寸法・建具位置)
・立面図や断面図(建物の外観の形状や仕上、天井・階の高さ)
・構造図や設備図(構造や設備の仕様や位置、寸法)
などです。
これらが無いと建築業者は、どんな建物をどのように、どこに建てればいいのかが分からず、建築工事を実施することができません。
間取り図だけでは建物を建てられないのです。
せっかく思いを込めて書かれた間取り図です。ぜひ、その間取り図を持って建築士に設計をご依頼ください。
公式1: 建物を建てるには設計図書が必要 = 設計が必要 = 建築士が必要
公式2: 間取り図は「理想をまとめた図面」= 設計図書ではない = 設計ではない = だれでも書いていい
はい!ここ試験に出ますよ〜(嘘)
「自分で設計したい。建築士じゃなきゃ設計しちゃダメなの?」
はい、ここからは「何が何でも自分で設計したい!!」「建築士に頼みたくない!!」という方へのコラムです。
建築士じゃなくても「設計」できる場合があります。
建築士とは?のコラムで、一級建築士、二級建築士、木造建築士で、それぞれ設計できる構造・規模に制限があるということを書きましたが、実は建築士じゃなくても設計できる構造・規模があるのです。
それは、木造建築物の場合、延べ床面積100㎡以下かつ階数2以下の建物です。(木造以外は割愛)
100㎡というと約30坪ですから、小さめの家やお店ならご自分で設計できます。少し勉強すれば、前出の図面(建築工事の実施のための図面)も書けるかもしれません。
しかし、設計とはただ図面を書けば良いというものではありません。
先の条文には、
「設計とはその者の責任において設計図書を作成すること」とあります。(ここがこの条文の一番重要な部分だと思います。)
設計図面を作成した者が、その図面の内容について責任を持つということですが、責任とは何でしょうか?
「自分で設計したから自分で責任を持つのはあたりまえ。もし地震で家が潰れても文句はねぇ。」
と、勇ましいのは結構ですが、それを責任と言えるでしょうか。
私は、設計図に記載の建築物が法令に適合していることが最低限の責任であると考えます。
構造基準を満たさない設計をし、それが原因で家が倒壊し、家族はもちろん、近隣や通りがかりの人にケガをさせたら?
防火基準を満たさない設計をし、それが原因で火災を起こし、近隣に延焼させたら?
建築基準法と約20もある建築基準関連規定は、人の命と財産を守る最低限の基準です。
建築士でない方が、これらの基準への適法をすべて確認するのは難しいと思います。しかし、ご自身で設計をするということは、それをすべき責任を負うということです。(近隣への迷惑については設計とは別次元の問題ですが。)
ここで、あることに気付くかもしれません。
「図面を書かなければ、設計じゃないんだから建築士じゃなくていい?」
どういうこと???
先の公式1より、
図面を書く = 設計する = 建築士じゃないとできない。というのが建築士法ですが、
図面を書かない = 設計じゃない = 建築士じゃなくていい。という理屈です。確かに設計じゃなければ建築士法そのものが関係なくなります。
「いやいや、さっき建築工事をするのに図面が必要って言ったじゃん。」
建築工事は一般的に元請・下請による重層的構造をもつので、建築主・設計者の意図を大勢の工事関係者すべてに正確に伝えるために図面が必要なのですが、例えば、建築主が自ら建築する場合(セルフビルド)は、自分の頭の中で想い描くものを現場で造れば良いので、図面がなくても建築できそうです。
つまり、頭の中に建物の仕様が入っている = わざわざ紙に図面を書く必要がない。と言えます。
「つまり、制限はあるけど図面を書かない方法や、構造・規模によっては自分で図面を書いてもいいんだ。」
実際には、なかなかそううまくはできないと思います。(ここからが私のターンですね)
建築場所にもよりますが、建物を建築するには「建築確認申請」という法定手続きが必要です。この申請書類に「図面」を添付する必要がありますので、この場合「図面を書かない」というわけにはいきません。
自分で設計可能な構造・規模であれば、自分で図面を書いて建築確認申請をすることは可能です。しかし、建築士以外の設計による建築物の建築確認申請では「確認の特例」制度が使えず、構造に関する図面や計算書の添付が必要になります。この場合、完了検査においても「完了検査の特例」制度が使えず、工事に使用した材料の品質証明書などを用意し書類検査を受けなければなりません。
これ、一般の方にはかなりハードルが高く、実質できないと思います。
餅は餅屋
先の例のように図面を書かないという手段が取れる場合や、なんとか勉強して自分で図面を書けたとします。
しかし、それで建てられた建物は、ちゃんと法適合されており、安全で健康的な生活ができる建物でしょうか。
設計は建築士(設計事務所または設計事務所を持つ建設業者)に依頼するのが、建築主としての責任ではないでしょうか。